社員が業務中にスマートフォンを見ながら運転して事故を起こしたとき、会社はどこまで責任を問われるのでしょうか。「会社も罰せられる」と漠然と考えている方は多いのですが、道路交通法の条文を読むと、会社の責任が向かう先は運転者本人とは違う形をしています。この記事では、刑事・行政・民事の三つに分けて、道路交通法の条文と公表資料、実際の行政処分の報道に沿って整理します。刑事については道路交通法第75条の「下命・容認」の枠組みに絞って確認し、それ以外の法令で会社側の責任が問われるかどうかは個々の事情によるため、この記事では扱いません。
根拠となる制度・法令
まず運転者本人です。運転中のスマートフォン使用を禁じているのは道路交通法第71条第5号の5です。警察庁の公表資料では、手に持って通話・注視する「保持」は6月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金(普通車の反則金18,000円・3点)、交通の危険を生じさせた場合は1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金(6点)です。反則金と点数の一覧はながらスマホの罰則。違反点数・反則金・拘禁刑を条文と警察庁資料で確認するにまとめています。
次に会社(道路交通法でいう「使用者」)です。栃木県警察が道路交通法を要約した資料では、使用者の義務が並んでいます。速度・駐車・積載や運転者の心身の状態に関する事項を守らせる第74条第2項もありますが、この記事ではながらスマホに関わる次の三つを取り上げます。
- 第74条第1項 業務で運転させる場合、運転者や運行を管理する立場の者に、安全運転に関する事項を守らせるように「努めなければならない」
- 第74条の3第1項 一定台数以上の自動車を使う本拠ごとに、安全運転管理者を選任しなければならない。緑ナンバーの運送事業者は対象外で、別の法律で運行管理者を置く
- 第75条第1項 業務に関し、運転者に次の行為を命じ、または容認してはならない
第75条第1項が挙げる行為は、無免許運転、最高速度違反、酒酔い・酒気帯び運転、麻薬等運転と過労運転、無資格運転、積載制限違反、放置駐車違反です。この列挙に、携帯電話の使用は入っていません。
刑事と行政で会社に向くもの
まず刑事です。第75条第1項の下命・容認には、行為ごとに罰則があります。酒酔い運転を命じたり容認したりした場合は5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金、無免許運転・酒気帯び運転・過労運転では3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。第123条の両罰規定により、法人にも罰金刑が科されます。ただし携帯電話の使用は第75条第1項の列挙にないため、ながらスマホそのものはこの罰則の対象外です。
次に行政です。第75条第1項に違反した使用者には、同条第2項で、公安委員会が6月を超えない範囲で「その自動車を運転し、又は運転させてはならない」と命じる使用制限の処分があります。埼玉県警察の処分基準では、処分の点数が酒酔い運転36点、無免許運転26点、過労運転等16点のように行為ごとに決められています。ここにも携帯電話の使用は出てきません。
つまり、ながらスマホそのものについては、第75条の「下命・容認」の枠組みで会社が問われる形にはなっていません。この記事で取り上げた規定のうち、ながらスマホに関して会社に向くのは、第74条第1項の努力義務と、第74条の3の安全運転管理者の制度です。安全運転管理者には選任だけでなく運転者への指導などの業務もあり、その範囲は後述の記事で確認できます。業務が守られず安全が確保されていないと認めるときは、公安委員会は使用者に安全運転管理者の解任を命じることができます(第74条の3第6項)。安全運転管理者を選任しなかった場合や、解任命令に従わなかった場合は50万円以下の罰金です(第119条の2)。
ただし、これで会社が安全だということにはなりません。行政処分は、事故をきっかけにした監査から別の経路でやってきます。
2026年3月、三重県亀山市の新名神高速道路で大型トラックが乗用車に追突し、6人が死亡しました。時事通信によると、運転手はスマートフォンの動画を見ながら運転していたとして、自動車運転処罰法違反(過失運転致死)の罪で起訴されました。運転手が勤めていたのは広島市の運送会社です。中国運輸局の発表によると、広島運輸支局が事故翌日の3月21日と4月28日にこの会社へ特別監査に入りました。その結果を受けて中国運輸局は7月7日付で、貨物自動車運送事業法に基づき、事業停止30日、トラック3両の使用停止、輸送の安全確保命令の処分を出しました(発表は7月28日)。
発表資料に挙がった違反は17項目です。勤務時間の基準を著しく守っていなかったこと、点呼を確実に実施せず点呼の記録に不実記載があったこと、運転者への指導監督を行っていなかったことなどが含まれます。処分の対象はスマホ使用そのものではなく、運行管理の不備です。ながらスマホの事故が監査の入口になり、そこで見つかった運行管理の不備が処分につながった、という順番です。
この監査と処分は運送事業者向けの仕組みです。白ナンバーの社有車を使う会社には、主に安全運転管理者の制度が関わります。運送事業の監査と処分の仕組みはトラックのながらスマホの罰則で緑ナンバー・白ナンバー別に解説しています。
民事の面では、刑事・行政とは別に、被害者への損害賠償という法的な責任を会社が問われることがあり得ます。どの程度の責任になるかは個々の事情で変わるため、ここでは立ち入りません。これとは別に、法的責任ではない事業上の影響として、報道や行政処分を通じて取引先・荷主からの信用が揺らぐことも考えておく必要があります。
事業者が満たすべき条件

条文から、会社が押さえておく条件は次のように整理できます。
- 安全運転管理者が必要な台数の事業所では、選任を済ませておく(第74条の3)。選任の基準と業務は安全運転管理者とはで解説しています
- 業務で運転させる社員に、走行中に手に持って通話することと、画面を注視することをしないよう守らせる取り組みを続ける(第74条第1項・第71条第5号の5)。ハンズフリー通話まで禁じるかどうかは、条文上の義務ではなく社内ルールとして決める
- 過労運転は第75条の列挙に入っている。長時間の運転を命じたり黙認したりしない
ここまでが条文に基づく内容です。第74条は「努めなければならない」という努力義務なので、実際に何をしていたかを後から説明できる形で残しておくことが、監査や取引先への説明で意味を持つと考えられます。
運用上の注意
注意したいのは、「第75条に携帯電話が入っていないから会社は関係ない」と読んでしまうことです。報道された事例では、事故のあとの監査で、勤務時間や点呼、運転者への指導監督といった運行管理の不備が問われました。ながらスマホの防止と、運行や勤務の管理は、切り離さずに扱う必要があります。
また、規程に「運転中はスマホ禁止」と書くだけでは、守られているかどうかを会社は確かめられません。第74条第1項の取り組みを後から説明するには、指導の記録と、運転の実態を示す記録の両方が要ります。
monap での対応
monap は、業務用スマートフォンにインストールするだけで運転を自動検知し、一定の速度を超えると画面操作を自動でロックする法人向けアプリです。
さらに monap は、急加速・急ブレーキ・運転中の画面操作を自動記録し、運転者ごとの安全運転スコアを算出します。記録は管理画面で全端末を一元管理できます。第74条の努力義務を果たすうえで、「指導した」だけでなく「どの運転者に、どんな操作や運転の傾向があったか」を記録に基づいて確認し、個別の指導につなげられます。
運転中の画面操作が記録に残るため、ロックだけに頼らず、記録を見て指導する運用を組めます。初期費用 0 円・専用端末不要・最短 7 日で運用開始できます。
