社用車でのスマートフォン使用について、車両管理規程や就業規則に「運転中の携帯電話の使用を禁止する」と一行だけ書いている場合、この一行では、信号待ちで画面を見てよいのか、ハンズフリーで電話に出てよいのか、休憩中に社用車を動かすときはどうなるのかが決まっていません。現場が迷う場面ほど、規程が答えを持っていないのが実情です。この記事では、停車中・ハンズフリー・私用時間の3点を先に決め、条文に落とし、懲戒とつなげるまでの手順を、一般的な条文例とあわせて整理します。
社用車のスマホルールの実情。「運転中は禁止」の一行で止まりやすい
出発点になる法律の線は、道路交通法第71条第5号の5です。警察庁が掲載している条文では、自動車等が停止しているときを除き、手で保持しなければ送受信できない携帯電話で通話することと、車に取り付けた・持ち込んだ画面を注視することを禁じています。違反すれば運転者本人に罰則がかかります(内容はながらスマホの罰則の記事)。
つまり、停止中の使用と、手に持たないハンズフリー通話は、この号の禁止対象に含まれません。社内規程が「運転中は禁止」とだけ書いていると、運転者はこの法律の線をそのまま社内の線だと受け取りがちです。
一方で、会社が負う責任は運転者本人の罰則とは別に動きます。兵庫県弁護士会の解説によると、従業員が業務中に事故を起こした場合、会社は民法第715条の使用者責任を負い、従業員への全額の求償は信義則上制限されます(詳しくは社用車の事故と会社の責任の記事)。事故の負担の多くが会社に残る以上、社内の線を法律より手前に引く理由は会社の側にあります。
規程に書く前に決めること。停車中・ハンズフリー・私用時間
条文を書く前に、次の3点を社内で決めます。ここが決まっていないまま条文を書くと、「禁止」の範囲が人によって違う規程になります。

1. 停車中の扱い。 法律上、停止中の使用は禁止されていません。ただ、信号待ちや渋滞での停止はすぐに発進へ移るため、発進の瞬間に視線が画面に残ることがあります。会社が決めるのは、「信号待ち・渋滞による停止」でも使ってよいとするか、「安全な場所に車を止め、エンジンを切った状態」に限るかです。おすすめは、信号待ち・渋滞中は使わず、安全な場所に停車してエンジンを切ってから使うという線です。警察庁が掲載する教則も、どうしても使う必要があるときは安全な場所に停車してから使うよう求めています。境界の考え方は信号待ちのスマホの記事にまとめています。
2. ハンズフリー通話。 全面禁止にするか、車載機などで端末に触れずに完結する場合だけ「受けるだけ」を認めるかを決めます。認める場合は、使ってよい機器、受けるだけか発信もよいか、緊急時の扱いまで書きます。端末を手に取らないと応答できない環境で許可すると、結局「保持」に行き着きます。選択肢ごとの向き不向きはハンズフリー通話の記事で比べています。
3. 私用時間。 休憩中や直行直帰の途中、業務の前後に社用車を動かす場面に、規程を適用するかを決めます。おすすめは、社用車を運転している間は、業務中かどうかを問わず同じルールを適用することです。兵庫県弁護士会の解説では、運行供用者には車の所有者も含まれるとされており、私用の運転だから会社と無関係とは言い切れません。あわせて、私物のスマートフォンにも同じルールがかかることを明記します。
条文例と懲戒との関係
3点が決まったら条文に落とします。以下は一般的な例で、自社の業務と既存の就業規則に合わせて調整してください。
第○条(運転中の携帯電話等の使用)
- 社用車を運転する者は、車両が停車しエンジンを停止している場合を除き、携帯電話・スマートフォンその他の通信端末(私物を含む)を手に持って使用し、またはその画面を注視してはならない。信号待ちおよび渋滞による停止中も同様とする。
- 走行中の通話は、会社が認めた車載機器により端末に触れずに応答できる場合に限り、着信を受けることができる。発信および端末の操作は、前項の場合(停車しエンジンを停止している場合)に限り行う。
- 前2項は、業務時間外または休憩中に社用車を運転する場合にも適用する。
- 運転を始める前に、端末をドライブモードに設定するなどして、走行中に着信音や通知で注意をそらされないようにする。
- 傷病者の救護その他緊急やむを得ない場合の取扱いは、別に定める。
第2項は、ハンズフリーも全面禁止にする会社なら「走行中は通話しない。着信は前項の場合に折り返す」と書き換えます。第4項は警察庁が掲載する教則(運転前に電源を切るかドライブモードに設定する)をそのまま社内の手順にしたものです。
懲戒とつなげる場合は、車両管理規程だけで完結させず、就業規則の懲戒事由から車両管理規程の違反を参照できる形にしておきます。どの程度の違反にどの処分を当てるか、手続きをどう踏むかは、労働法の専門家に確認したうえで決めてください。運用上は、最初の違反は指導と記録、繰り返した場合に懲戒を検討するといった段階を規程や運用要領に書いておくと、恣意的な処分だという疑いを招きにくくなります。
運用開始までの流れ
- 3点を決める。停車中・ハンズフリー・私用時間について、安全運転管理者や部署の責任者と案を作ります
- 条文に落とす。車両管理規程に条文を置き、就業規則の懲戒事由とのつながりを確認します
- 周知する。条文を配るだけでなく、警察庁が示す「時速60キロで走行した場合、2秒間で約33.3メートル進む」といった数字を添えて、なぜ停車してからなのかを説明します
- 守られているかを確かめる手段を運用要領に書く。カメラ型の機器(AIドライブレコーダーなど)、端末のアプリで操作を制限する方式などから業務と台数に合わせて選び、記録を誰が確認し、違反があれば誰が指導するかを一文で書き添えます
確かめる手段がないまま規程だけを置くと、違反があっても会社が気づけず、懲戒の規定も使われません。記録の確認を担う安全運転管理者の業務は安全運転管理者の記事を参考にしてください。
monap での実例
monap は、業務用スマートフォンにインストールするだけで運転を自動検知し、管理者が設定した速度を超えると画面操作を自動でロックする法人向けアプリです。流れの4番目にあたる「確かめる手段」のうち、端末のアプリで操作を制限する方式の一つです。
規程との関係で効くのは、条文で決めた線を、アプリの設定にそのまま反映できる点です。ロックを始める速度(ガード開始速度。たとえば時速15km以上)や、ハンズフリー通話を許可するかどうかは、管理者がクラウドの設定でリモート一括変更できます。
- 条文例の第2項のように「車載機器で受けるだけは可」とする会社は、ハンズフリー通話を許可し、画面操作のロックは残す
- ハンズフリーも全面禁止にする会社は、ハンズフリー通話を許可しない設定にして、停車後の折り返しに寄せる
規程を改定したときも、拠点ごとに端末を集めて設定し直す必要はありません。条文のうちアプリで制御できる条件(ガード開始速度とハンズフリー通話の可否)は、クラウドで一括して変えられます。
一方で、速度で判定するため、信号待ちや渋滞中の停止などごく低速の場面は、条文で決めた「停車してから」を運転者自身が守る部分として残ります。アプリは条文の一部を端末側で支える仕組みであり、教育と記録の確認を置き換えるものではありません。まずは自社の規程案をもとに、ガード開始速度とハンズフリー通話の設定を業務用端末で試してみてください。
